「値上げが急すぎる」
「根拠や説明が不十分だ」
私が理事を務めるマンションで、修繕積立金の値上げ議案が否決されたときに出た声です。前々回、その話を書きました。
当時の私は、この2つをまとめて「反対意見」として受け止めていました。どちらも値上げに反対している。そう思っていました。
でも、この2つは別物です。背景も、答え方も違います。
前回は①現状把握、数字で現状を共有する話でした。今回は、②論点抽出です。値上げへの反対意見を、事前に読む話です。
反対意見は、1種類ではない
総会で反対の声が上がると、理事会側はつい「反対されている」という一括りで受け止めてしまいます。でも、反対にはいくつかの型があり、型によって背景も、答え方も違います。
マンションみらい価値研究所(大和ライフネクスト)が2022年7月に公開した調査レポート「修繕積立金値上げ議案への6つのネガティブ質疑類型」では、値上げ議案に対する反対質疑を6つの型に整理しています。
大事なのは、6種類を覚えることではありません。「反対」と聞いたときに、その中身を分けて考えることです。
6つの型
| 型 | どんな質疑か |
|---|---|
| 代替案提案型 | 「値上げより駐車場の空き対策が先」のように、値上げに代わる案を提案してくる |
| 自己主張型 | 具体的な根拠を伴わない発言。怒りの度合いは伝わるものの、他の区分所有者が追随する可能性は低いとされる |
| 理事会批判型 | アンケート調査の扱いなど、理事会の審議プロセスそのものへの不信を問う |
| 管理会社批判型 | 怒り度が高く、他の区分所有者が追随しやすいとされる |
| 売主批判型 | 「積立金を値上げする話は販売時に聞いていない」「建物の劣化が早いのは売主の瑕疵ではないか」のように、購入時の説明や物件の状態を理由に売主の責任を問う |
| 他者代弁型 | 「高齢の方は大変だ」のように、自分ではなく別の立場を代弁する形で発言される |
一括りに「反対」と見ていたものが、実際には性格の違う6つに分かれています。
あの否決で出た反対意見を、型に当てはめてみる
冒頭の2つの声を、型に当てはめてみます。
「値上げが急すぎる」という声は、当時の理事会には、根拠を伴わない訴えに聞こえていました。型に当てはめれば、自己主張型です。「根拠や説明が不十分だ」という声は、理事会の審議プロセスそのものを問う、理事会批判型でした。型が違えば、本来は答え方も違ったはずです。
型によって、答え方を変える
同レポートは、いくつかの型について対応のポイントも示しています。
代替案提案型には、過去にその案を検討した経緯や修繕履歴を事前に準備しておき、「すでに検討して廃案になった」「実現可能性が極めて低い」と明確に答えられる態勢が要るとされています。思いつきで返すと、水掛け論になりやすい型です。
管理会社批判型には、管理会社ではなく理事から説明したほうが理解を得やすいという指摘があります。事前に想定問答集を用意し、理事の間で共有しておく。矢面に立つ人を決めておくということです。
理事会批判型に多いのは、アンケート調査をめぐるものです。レポートには「反対意見が多いのに、なぜ値上げが総会の議案になっているのか」といった質問例が挙げられていて、理事会の審議そのものへの不信につながりやすいとされています。これに対しては、アンケート結果の位置づけを明確にすることが挙げられています。アンケートはあくまで参考資料であり、議案を出すかどうかは理事会の決議事項だと、はっきり示しておく。
自己主張型、他者代弁型、売主批判型については、レポートでも具体的な対応策までは書かれていません。ここから先は、私自身の実感の話になります。
ただ、現場の温度感は少し違う
レポートは、自己主張型を「他の区分所有者が追随しにくい」と整理しています。でも私の実感では、根拠を伴わない訴えであっても、場の空気が傾けば追随は起きます。ここは、対応が難しいところです。理事会が正面から説明するより、他の区分所有者から自然に賛成の声が上がったときのほうが、場が落ち着く。こちらから用意できるものではありませんが、そういう場面は実際にあります。
他者代弁型も、見た目どおりとは限りません。「高齢の方は大変だ」という声は、代弁の形を取りながら、本人自身の心配が含まれていることも少なくありません。安易に流さず、その人自身が何を心配しているのかを探る。総会の場で無理に引き出す必要はなく、説明会やアンケートで出た声なら、総会の前に直接聞きに行けば足ります。これは、工程⑤の意見収集にもつながります。
売主批判型は、建物の年数で出るかどうかがかなり変わります。築浅のマンションなら十分あり得る一方、築年数が経ったマンションでは、ほとんど論点になりません。分譲から30年が経っていれば、その間の予算も決算も長期修繕計画も、管理組合が総会で承認しながら積み上げてきたものだからです。売主にさかのぼる話にはなりにくい。そうしたマンションなら、この型への備えは軽くてよいはずです。
また、レポートは理事会批判型が管理会社批判型と比べて「数は多いが怒り度は低い」と整理しています。でも、私の実感ではそこまで低くはありません。管理会社批判型と理事会批判型は、別々の型として並んでいますが、根は近いところにあります。
管理会社は、管理組合の財務状況も長期修繕計画も把握しているはずだ。それなら、もっと早く計画の見直しや積立金の改定を提案してくれていれば、ここまで逼迫する前に手を打てたのではないか。区分所有者には、そういう思いがあります。
理事会も同じ思いを持っています。ただ、一般の区分所有者よりも理事会のほうが先にこの問題に気付き、いくつもの検討や管理会社との議論を経て説明会や総会に臨んでいます。だから総会の場では、結局は理事会が前面に出て対応することになり、怒りや批判を受け止める格好になります。矛先が理事会に向いているだけで、その下にある感情には共通する部分があります。
区分所有者から出る「根拠が足りない」といった批判は、もっともな主張です。実際にそういう場合もあります。ただ、どれだけ根拠を揃えたところで、理詰めだけで合意形成を進めるのは難しい。根拠の提示は前提であって、そこから先、丁寧な議論のプロセス、十分な情報開示、誠実な説明を重ねて、一人ひとりの納得感をつくっていく。合意形成で一番大事なのは、そこだと考えています。
事前に読むことの意味
では、型を知ることに意味はないのか。そうではありません。型は答えの正解集ではなく、目の前の発言の背景を見分けるための道具です。
総会の質疑は、その場で初めて聞くものだと身構えがちです。でも、値上げ議案という条件がある程度絞られていれば、出てくる反対のパターンはある程度予測できます。
型ごとに、誰が答えるか、どんな資料を手元に用意しておくかを事前に決めておく。それだけで、総会での受け答えは変わります。答えを準備することは、反対意見を封じることではありません。
やり方は難しくありません。総会の前に、理事会の中で「どの型が出そうか」「出たら誰が答えるか」を紙1枚に書き出しておくだけです。当日その通りに進むとは限りませんが、想定していた型が1つでも出れば、答える側の余裕はまるで違います。
あの否決も、振り返れば、こうした型ごとの想定が足りていませんでした。
次回予告
①現状把握と②論点抽出を終えると、次に待っているのは③案の比較です。
「値上げするか、しないか」ではなく、複数の案をどう並べて見せるか。ここを間違えると、比較の前に結論が決まってしまいます。
前回の記事をまだ読んでいない方は、あわせてどうぞ。①現状把握を数字で共有する話を書いています。
あなたのマンションの総会では、これまでどんな型の反対が出ましたか。
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