あなたのマンションの大規模修繕の予算額をいま知っているのは誰ですか。
理事会のメンバー、管理会社の担当者、設計コンサルタント。
そこまでは答えられても、その先にどこまで伝わっているかを確かめたことのある理事は、ほとんどいないはずです。
2026年9月28日、公正取引委員会が、関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐる談合について、排除措置命令と課徴金納付命令を出したと発表しました。
関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について(公正取引委員会)
6月に報道が出た段階で、私は「マンション修繕談合のニュースを、理事経験者として読む」という記事を書き、正式な発表があれば更新すると書いていました。
発表資料を読んで、追記では足りないと判断しました。公取委が認定した事実の中に、管理組合がそのまま使える具体的な中身があったからです。
発表の要点は次のとおりです。
- 違反を認定された事業者:42社(設計コンサル業者2社、施工業者40社)。排除措置命令は38社
- 設計コンサル業者:株式会社リノシスコーポレーション(大阪市)と株式会社翔設計(東京都渋谷区)。排除措置命令の対象で、課徴金は課されていない
- 課徴金:施工業者37社に総額16億3,788万円。大きいのは株式会社伊勝(3億8,204万円)、株式会社長谷工リフォーム(3億2,937万円)、株式会社富士防(1億3,074万円)、株式会社シミズ・ビルライフケア(1億2,923万円)。全社の社名と金額は公取委の別表1・別表2に載っている
- 対象の工事:関東1都6県の171件。管理組合が設計コンサル業者に業務を委託して発注した大規模修繕工事
- 時期:遅くとも2021年秋から、2025年3月4日の公取委の立入検査まで
この記事では、管理組合の側で何を確認すればいいのかをまとめます。
「手数料」について公取委が書いたこと

出典:公正取引委員会 2026年9月28日発表資料をもとに作成
排除措置命令書には、お金の流れも書かれています。
コンサル業者の協力を得て受注した施工業者は、原則として、管理組合との工事請負契約の金額の5パーセントを目安とする金額を、コンサル業者に支払っていた。
1億円の工事なら、500万円。管理組合が施工業者に払う工事代金に連動して、組合の側に立つはずのコンサル業者にお金が入る仕組みです。
公取委は、この支払いを「手数料等」と呼び、別の資料(別添3)で整理しています。手数料等は、施工業者が受注できるようにコンサル業者が情報提供などで協力したことへの「報酬」として機能する可能性がある。
そのうえで、特に次の行為は、施工業者どうしの自由な競争をゆがめるおそれがあるとしています。
- 特定の工事の発注前に、コンサル業者と施工業者の間で「その施工業者が受注したら手数料等を払う」と取り決めること
- 工事を特定しない包括的な取り決めであっても、受注に有利な情報をコンサル業者が施工業者に提供すること。あるいは、取り決めのある施工業者に有利になるよう、見積り合わせの参加条件についてコンサル業者が管理組合に働きかけること
国土交通省は2017年1月27日に「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」という通知を出しています。前回の記事でも触れました。
そこには、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作をするコンサルタントの例が、「指摘されている事例」として載っていました。
9年前には「指摘されている」だった構造を、今回、公取委が行政処分の中で事実として認定した。私は、ここが今回の発表でいちばん大きい部分だと受け止めています。
もう一つ、命令書で目を引いた記述があります。
コンサル業者に業務を委託した管理組合は、基本的に、最終的に最も低い見積価格を出した施工業者に発注していた、という一文です。
管理組合は「いちばん安いところに頼む」という真っ当なルールで選んでいた。それでも、見積り合わせに参加した業者の価格があらかじめ調整されていれば、そのルールは機能しません。
最安値そのものが、作られていたことになります。
管理組合が外に出してはいけない4つの情報
公取委は別添3で、問題となる情報の例を4つ挙げています。
- 管理組合が設定した発注予定金額(いわゆる予算)
- 管理組合が設定した、発注先を選ぶ具体的な基準
- 見積り合わせに参加する施工業者名
- 見積り合わせに参加する他の施工業者の見積価格
どれも、管理組合が候補の施工業者に知らせたくない情報で、候補の手に渡ると競争がゆがむおそれがある、という位置づけです。
今回の事件でも、コンサル業者は業務の中で知った設計予算などの情報を、受注予定の業者に渡していました。
難しいのは、この4つを全部知っている立場の人がいることです。
設計コンサルを入れる方式なら、コンサルは4つとも知っています。知らなければ仕事になりません。だから「コンサルには教えない」は答えになりません。目指すのは、組合が開示すると決めたもの以外は外に出ない状態です。
理事会で決めておけることは、たとえば次のようなものです。
- 予算額は、施工業者向けの資料や現地説明の場で口にしない。予算の話をするのは理事会と修繕委員会の中だけにする
- 参加業者の名前は、見積り合わせが終わるまで、業者どうしにも伏せる
- 見積書は、理事会や修繕委員会が立ち会って開封する。コンサルや管理会社が先に中身を見て、理事会には比較表だけが届く流れにしない
- 選定基準は、業者の提案を受け取る前に理事会で決めて記録に残す。後から動かさない
どれも特別な仕組みではありません。
ただ、「情報を持っている人」と「決める人」を分けるという意識がないと、忙しい理事会の中で自然に崩れていきます。
理事会の議事録や掲示物に、見積り合わせが終わる前の予算額や参加業者名をどこまで書くのか。これも一度、理事会で話しておきたい点です。
コンサル契約で確かめておくこと
設計監理方式を選ぶなら、コンサルと契約する段階で聞いておきたいことがあります。
- 施工業者から、手数料・紹介料・協力金など名目を問わず、報酬を受け取ることがあるか
- そうした関係のある施工業者がいる場合、それを管理組合に申告するか
- 見積り合わせの参加条件や候補業者の選び方を誰が決め、管理組合がどう承認するのか
口頭で「ありません」と聞いて終わりにしない。契約書や業務の仕様書にどう書くかまで詰めておく。条項の書き方は、マンション管理士や弁護士などの専門家に相談して決めるのが確実です。
2017年の通知には、格安のコンサル料金で業務を受け、施工会社からのバックマージンで回収する手口も書かれています。コンサル料が相場よりはっきり安いときは、その理由を聞く。安さだけで選ばない。
見積り合わせの参加条件は、誰が決めているか
見積り合わせには、参加できる業者の条件が付きます。
資本金、施工実績の件数、過去に手がけた工事の規模。条件を少し動かすだけで、参加できる業者の顔ぶれは変わります。
公取委が別添3で、参加条件をめぐるコンサルから管理組合への働きかけを問題となる行為の例に挙げているのも、この点に関わります。
理事会で確かめたいのは2点です。
- 公募の条件は、誰の案で、どんな理由で決まったのか。
- その条件によって、どんな業者が参加できなくなるのか。
コンサルや管理会社の案をそのまま承認せず、条件ごとに理由を聞く。
それだけで、条件を決める主導権は組合の側に戻ります。
同じ条件で比べ、最後は自分たちの目で確かめる
前回の記事で書いたとおり、私が理事を務める300戸超のマンションでは、2025年の大規模修繕を責任施工方式で進めました。同じ条件で5社から見積もりを取り、上位3社に最終プレゼンテーションをしてもらって施工会社を決めています。同じ条件で揃えても、最も高い会社と最も安い会社の見積もりには、約1,000万円の開きがありました。
候補の業者を集める経路を、コンサルや管理会社だけに頼らない。
書類の比較だけで決めず、最終プレゼンのように理事が直接質問できる場を持つ。
仕様の根拠、工程、見積もりの内訳を、自分たちの言葉で聞く。
方式がどちらであっても、組合が自分で確かめる工程を一つ入れておくことはできます。
おわりに
談合は、管理組合のせいではありません。
落ち度は、調整した側にあります。
ただ、今回の発表で分かったことがあります。
第三者のチェックが入る方式を選んでも、最安値で選ぶルールを守っても、情報が外に漏れていれば競争は成り立たない。
方式やルールが守ってくれるのではなく、発注する組合の側に、情報と判断を手元に置いておく力があるかどうか。
前回の記事で「本丸は発注者の力」と書いたことを、公取委の認定があらためて裏付けたと受け止めています。
冒頭で、大規模修繕の予算額を知っているのは誰か、と問いました。
次の理事会で、その問いをそのまま口に出してみてください。答えがすぐに出なければ、そこが最初に手を入れる場所です。
関連記事
正論だけではマンションは救えない ~ 修繕積立金8倍を8割の賛成で決めた3年間
修繕積立金を平米単価53円から430円へ。国の目安を超える値上げを、総会で議決権比率8割超の賛成を得て決めるまでの3年間の記録です。1票差の否決、暫定改定、アンケート、説明会。正論だけでは決まらない合意形成の実際を、現役理事の目線で振り返ります。
続きを読む mansion-management「賛成か反対か」にしたのは、理事会だった ~ 比べる過程を渡す
値上げ案を一つだけ出すと、議論は賛成か反対かの対立になります。それを選んでいたのは、実は理事会自身でした。比較で合意形成し、最後は一つに絞って提案する。その実務を、現役理事の目線で整理します。
続きを読む mansion-management値上げへの「反対」は6種類ある ~ 総会の質疑を事前に読む
総会で反対の声が上がると、理事会はつい『反対されている』と一括りに受け止めがちです。値上げ議案への反対質疑を6つの型に分けた公開研究を、現役理事の実感で読み直し、事前の備え方を整理します。
続きを読む