コラム一覧に戻る
mansion-management

マンション修繕談合のニュースを、理事経験者として読む

2026-09-07

あなたのマンションの大規模修繕は、誰が、どんな手順で発注先を決めましたか。あるいは、これからどう決めますか?
すぐに答えられなくても、それが普通です。大規模修繕は12〜15年に1回。ほとんどの理事が「初めて」のまま、数千万円から億単位の工事を発注します。

2026年6月11日、その大規模修繕をめぐる談合の報道が流れました。施工会社だけでなく、本来は管理組合の味方であるはずの設計コンサルタントまでが関与していたとされています。

私は300戸超のマンションの理事として、2025年に自分のマンションの大規模修繕を経験しました。この記事は、業界の外から断罪する立場ではなく、「発注側」の視点でニュースを読み解くものです。

何が起きたか — 報道の概要

報道によると、公正取引委員会は、マンション大規模修繕工事の見積もり合わせや入札で談合を繰り返していたとして、施工会社30社超に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除措置命令を出す方針を固めたとされています。施工会社側には計約16億円の課徴金納付を命じる方針です。
遅くとも2021年秋ごろ以降、関東地方のマンション大規模修繕工事で価格や受注者が事前に調整されていた疑いがあり、対象の工事は100件を超えるとみられています。

私がこの報道で最も重く受け止めたのは、施工会社の数でも課徴金の額でもありません。排除措置命令の対象に、設計コンサルタント2社が含まれる方針だと報じられた点です(コンサルタント側への課徴金はないとされています)。
設計コンサルタントは、本来、管理組合の側に立って発注を助ける存在。
その立場の事業者が受注調整に関与したとされる。
この一点に、今回の問題の構造が表れています。

なぜ大規模修繕は談合が起きやすいのか

大規模修繕という発注に談合が生まれやすい理由は、大きく3つあります。

第一に、管理組合は「毎回が初めての発注者」です。
大規模修繕の周期はおおむね12〜15年に1回。理事は数年で交代しますから、前回の経験者が理事会に残っていることはまれです。数千万円から億単位の工事を、ほぼ全員が未経験のまま発注することになります。

第二に、「情報の非対称性」です。
外壁補修の単価、防水の仕様、適正な価格水準。
発注する側にその物差しがなければ、出てきた見積もりが高いのか安いのかの判断すらつきません。

第三に、「利益相反」です。
管理組合の味方であるはずの設計コンサルタントが、施工会社側と利害でつながり得ます。コンサルタント業務を安値で受注し、その分を施工会社からのバックマージンで回収する。
そうした構造が成立し得ることは、業界では以前から指摘されてきました。

実際、国土交通省は2017年1月27日付で「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」という通知を出しています。
自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作を行い、割高な工事費や過剰な工事項目・仕様での発注を誘導する。そんなコンサルタントの事例を示したうえで、管理組合向けの相談窓口を周知する内容です。

つまり、今回の報道は突然降ってきた話ではありません。10年近く前から行政が注意を促してきた構造問題が、改めて表に出たものです。

設計監理方式と責任施工方式 — 中立に整理する

大規模修繕の発注方式には大きく分けて2つあります。

「設計監理方式」は、設計コンサルタントが調査診断・仕様の設計・施工会社選定の支援・工事監理を担う方式です。専門家のチェックを得られる一方、コンサルタント費用が別途かかり、なによりコンサルタント自身の中立性に全体が依存します。

「責任施工方式」は、管理組合が設計から施工までを施工会社に一括で任せる方式です。コンサルタント費用はかからず、責任の所在が明確な一方、施工会社に対する第三者のチェックが働かず、仕様や見積もりの妥当性を組合自身が判断する必要があります。

「設計監理方式なら第三者の目が入るから安心」。これが長く通説でした。今回の報道は、その前提が常には成り立たないことを示しています。チェックする側が受注調整に関与していれば、第三者チェックは機能しません。

ただし、だからといって「責任施工方式なら安全」でもありません。
第三者の目がない以上、施工会社の提案を鵜呑みにすれば、過剰な仕様も割高な価格も素通りします。

結論はこうです。
どちらの方式にも固有のリスクがあり、どちらを選んでも、発注者である管理組合の側に力がなければリスクは残ります。
方式の選択は手段であって、本丸は発注者の力です。

うちの管理組合の場合 — 責任施工方式で5社競争

私が理事を務める管理組合では、2025年に大規模修繕を実施しました。

大規模修繕の検討は、実施の2〜3年前から始まります。最初に検討すべきは方式の選定となりますが、この検討は理事会でも意見が割れました。
「理事は素人なのだから、コンサルタントに入ってもらう設計監理方式にすべきだ」という意見。一方で、当マンションは過去にすでに2回の大規模修繕を経験しており、古くから理事を務めるメンバーもいます。「見るべき箇所は分かっている。責任施工方式でやれる」という意見。
議論の末、最終的に採用したのは責任施工方式です。ただし、1社に任せて終わりにはせず、競争の環境を、組合の側で設計しました。

進め方はこうです。
まず、同じ条件で5社から見積もりを取りました。
次に、見積もりと提案の内容から上位3社に絞り、最終プレゼンテーションをしてもらったうえで、施工会社を決定しました。

文字にすると簡単に見えますが、いちばん大変だったのは「同じ条件」を作ることです。仕様を揃え、比較の軸をあらかじめ設計しないと、各社の見積もりは並べて比較できるものになりません。
組合の側で仕様を固定し、見積もりの内訳の出し方まで指定して、ようやく「比較できる5枚」が手元に揃います。

結果として、各社の見積もりには数百万円規模の開きがありました。
同条件で揃えてなお、これだけの差が出ます。手間はかかりましたが、管理組合として最もコストパフォーマンスの高い選択ができました。

強調したいのは、「責任施工方式が正解だった」という話ではない点です。効いたのは方式そのものではなく、競争の環境を発注者側で設計できたことです。同条件の相見積もりと最終プレゼンという進め方は、設計監理方式を選んだ場合でも応用できます。
実際、先ほどの国土交通省の通知にも、複数社から見積もりを取り、公正な手続きで絞り込んで決定した管理組合の事例が「取組事例」として紹介されています。

管理組合が持つべき「知識」と「武器」

では、専門家ではない理事や修繕委員は、何を持てばいいのか。「知識」と、知識を実際に使える状態にする「武器」とに分けて整理します。

知識として押さえたいのは3つです。
①国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン。②修繕積立金の相場観(国土交通省のマンション総合調査などの公的データ)。③そして、先ほど整理した発注方式それぞれの仕組みとリスクです。

ただし、知識は持っているだけでは現場で使えません。判断の道具に変える「武器」が要ります。

ひとつは、同条件相見積もりの設計。
仕様を固定し、比較表を作る。前の章に書いた通りです。

もうひとつは、自分たちのマンションの数字を、自分たちの手元に持つこと。長期修繕計画と修繕積立金の現在地を、管理会社やコンサルタントから「もらう」だけで終えず、組合自身が把握して、自分たちで動かせる状態にしておく。
管理組合が長期修繕計画を自分たちでシミュレーションできるサービス「SOLCUBE Cloud」を自分で作ったことも、この考え方に基づいています。

これは談合を防ぐ道具ではありません。
ただ、自分たちの数字を自分たちで持っている組合は、出てきた見積もりや計画に対して、自分たちの物差しで向き合えます。

おわりに

談合は、管理組合のせいではありません。落ち度は、調整した側にあります。それでも、構造を知っている組合と知らない組合とでは、出てくる結果が変わります。

12〜15年に1回しか来ない大規模修繕を、管理組合の理事たちは毎回「初めて」として迎えます。その「初めて」を、知識と道具で「初めてではない状態」にして臨む。それが、発注者になるということです。

冒頭で、あなたのマンションの修繕は誰がどう決めるのか、と問いました。その答えを持ち帰るために、次の理事会で3つだけ確認してみてください。

  1. 長期修繕計画と修繕積立金は、いま「誰の手元」にあるか。組合は、その数字を自分で動かせる状態か。
  2. 次の大規模修繕はいつで、施工方式と発注先は「どういう流れ」で決まることになっているか。
  3. 相見積もりを取るとき、「同じ条件」を誰が設計するのか。

どれも特別な専門知識はいりません。
次の理事会で、口に出して聞くだけで始められます。


同じテーマを、5分の動画にまとめました。
発注者としての要点を、図解で一気に追えます。

本稿は正式な命令発出前の報道に基づいています。公正取引委員会から正式な発表があり次第、更新します。

関連記事