私は自分が住むマンションで管理組合の理事をしています。
その立場で、長期修繕計画を見直す方法を検討したことがあります。業者に頼むのか、頼むならどこの業者か、それともExcelで手作りするのか、ソフトを買うのか、Webサービスを使うのか。調べ始めてすぐ気づいたのは、選択肢が思った以上に多く、しかも種類も品質もバラバラだということでした。コストも、できることも、誰が手を動かすのかも、全部違う。
長期修繕計画ツールに「唯一の正解」はありません。 どれが向くかは組合ごとに違うからです。私が調べて整理した結果、選ぶときに見るべき軸は次の7つに収斂しました。
- 何ができるか(機能スコープ) — 計画を新規に作ってくれるのか。将来の収支をシミュレーションできるのか。それとも、手元にある計画をデータ化したり、現状を診断したりするだけなのか
- 代行してもらうか、自分で回すか — 誰が手を動かすか
- 即時性 — その場で答えが出るか、数日待つか
- 継続利用・複数物件・共有 — 一度きりか、毎年回すか。管理組合内で共有できるか
- AIの活用と判定基準の透明性 — 何を根拠に数字が出ているか分かるか
- 国土交通省ガイドラインへの準拠 — 標準様式に沿っているか
- 価格構造 — 無料か、買い切りか、月額か、委託費か
以下、市場の選択肢を6タイプに分けて整理し、最後に私が作っているサービス(SOLCUBE Cloud)も同じ並びに加えて、この7軸で横並びにします。
長期修繕計画ツールは、大きく6タイプに分かれる
タイプ1: 公的・無料のWebツール
お金をかけずに、まず収支の全体像をつかみたい組合に向きます。
- 住宅金融支援機構「マンションライフサイクルシミュレーション(長期修繕ナビ)」 は、無料で使えるWebツールです。40年間の収支を試算できます。AIは搭載していません。数字を自分で入れて、将来の積立金が足りるかを見る、という簡易的な使い方です。
タイプ2: 公的・低額の計画作成代行(データ提出型)
無料の自己入力では物足りないが、いきなり高額な委託は避けたい——そんな組合に向きます。
- 公益財団法人マンション管理センターの長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス は、入力データ記入票(Excel)に記入してメールで送ると、約2週間で長期修繕計画と修繕積立金の算出結果が届くサービスです。出力は国土交通省の標準様式(様式第4-1号〜5号)に沿ったExcelと報告書。費用は1棟あたり¥14,000(センター登録組合)〜¥21,000(その他の組合)〜。Webツールではなく、提出データに基づいてセンターが作成する代行型で、現地調査は行いません。
実は私の所属する管理組合で、最初にこのサービスを使ってみました。公的で低額、という安心感はあります。ただ、現地調査はなく、出てくるのは提出データに基づく机上の概略計画。条件を変えて試算したい・理事会で数字を見ながら議論したいとなると物足りず、結局は設計コンサルに依頼することになりました。その費用が、後で触れる150万円超です。安価な入口としては価値があるが、深く検討するには別の手段が要るため、最後まで伴走してくれるものではないというのが実感です。
「無料では物足りないが、まずは公的に低額で標準様式の計画を作りたい」という組合に向きます。
タイプ3: データ化代行サービス
紙やPDFの資料はあるけれど、それを数字に起こすのが大変、という組合に向きます。
- マンション修繕なび(株式会社オプテージ) は、手元のPDFを預けると、最短5営業日でデータ化してくれるサービスです。人の手とWebツールを組み合わせて処理します。現状は無料で(将来の有料化は予告されています)、赤字に転落するタイミングの可視化、積立シミュレーション、総括表のWeb編集ができます。
「紙の資料はあるがデータ化できておらず、誰かにやってほしい」という組合に向きます。
タイプ4: AI伴走型サービス
計画を作って終わりにせず、毎年の実績を反映して回し続けたい組合に向きます。
- AI修繕ドクター(配管保全センター株式会社) は、AIで長期修繕計画を作り、毎年の実績を反映して30年以上を再計算してくれるサービスです。費用は初期15万円から、年額3万円からとされています。給排水管の専門工事会社が母体で、施工の目線(高耐久材料の採用、談合を阻止する仕組みなど)を打ち出しています。
「専門家の伴走がほしい」「工事のリアルも踏まえたい」という組合に向きます。
タイプ5: 買い切りのExcelソフト
一度しっかり作れればよく、コストは抑えたい組合に向きます。
- シム長計(株式会社ベルコンピューティングシステム) は、マクロを組み込んだExcelファイルです。買い切り18,000円。修繕工事19項目と収入を入力すると、表とグラフを自動で作ってくれます。5年後の見直しにも対応します。国土交通省の長期修繕計画標準様式(令和6年6月改定)への対応を明記しているのが特徴です。
「とにかく安く」「Excelで手元にデータを持って試算したい」「一度作れば十分」という組合には、コスト効率がよい選択肢です。
タイプ6: 大手管理会社・設計コンサル・建築士事務所への委託
自分たちで手を動かさず、専門家に丸ごとお願いしたい組合に向きます。コストは最もかかりますが、信頼度も最も高いといえます。
長期修繕計画の作成を外部に委託する場合、民間の情報メディアが伝える相場の目安は、管理会社で新規作成50万〜100万円・見直し10万〜50万円、マンション管理士で新規作成50万円から、とされています。ただし建物診断が加わると、総額はさらに膨らみます。
実際、私が自分の組合で見積もりを取ったときは、3社に依頼して2社が150万円を超えました。相場の目安だけを見ているとこの水準は高く感じるかもしれませんが、規模や建物診断の有無で簡単にここまで行きます。
なお、国土交通省のガイドラインに作成費用は書かれておらず、この種の金額は「公的に決まった相場」ではありません。あくまで市場で実際に出てくる数字として受け取ってください。
「お金をかけてでも全部任せたい」「合意形成も含めてプロに頼みたい」という組合に向きます。
区分所有者向けの説明会を開催する際、お願いすれば理事会に代わって説明もしてくれますので、理事会では説明が心許ないという場合も安心感があります。
7軸で横並びにする
私が探していたときに一番ほしかったのが、この一覧でした。ここまでの6タイプに、私が作っている SOLCUBE Cloud(計画の作成・シミュレーションから、手元計画の取り込み・診断まで自分で回すSaaS)も加えて、全部を同じ7軸で並べます。表の一番下が SOLCUBE Cloud です。
| タイプ | ①機能スコープ | ②誰が動かす | ③即時性 | ④継続・複数物件 | ⑤AI・透明性 | ⑥国交省様式 | ⑦価格 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 公的・無料Web(長期修繕ナビ) | 作成+シミュ | 自分 | 自分で入力 | 単発向き | AIなし | 公的ライン | 無料 |
| 公的・作成代行(管理センター) | 作成(データ提出) | 代行 | 約2週間 | 単発・棟単位 | AIなし | 標準様式対応 | ¥14,000〜21,000/棟 |
| データ化代行(マンション修繕なび) | データ化+シミュ | 代行 | 最短5営業日 | 物件単位 | AI明示なし | — | 現状無料(将来有料) |
| AI伴走(AI修繕ドクター) | AI作成+毎年再計算 | 専門家+自分 | 毎年更新 | 継続前提 | AIで作成・再計算 | — | 初期15万〜/年3万〜 |
| 買い切りExcel(シム長計) | 作成+シミュ(手入力) | 自分 | 入力後すぐ | 単発向き | AIなし | 標準様式対応 | 買い切り18,000円 |
| 委託(管理会社・コンサル) | 専門家が作成+建物診断 | 専門家 | 数週間〜 | 都度依頼 | — | 委託先による | 数十万〜150万円超 |
| シミュレーションSaaS(SOLCUBE Cloud) | 作成+シミュ+取込・A〜D診断 | 自分 | その場で即時 | 継続・複数物件可 | AI・判定基準を公開 | 様式Excel出力 | 月額制(¥5,980) |
横に並べると、選択肢が「種類」として違うことがよく分かります。特に、左端の「機能スコープ」を最初に見てください。計画をゼロから作ってくれるツールなのか、手元にある計画を取り込んで点検するツールなのか。ここが自分の組合の状況とずれていると、ほかの軸がどれだけ良くても噛み合いません。単純に価格だけを並べても比較にならない、というのが私の実感です。
「こういう組合はこれが向く」
軸が整理できたら、あとは自分の組合がどこに当てはまるかです。
- とにかく無料で、まず全体像をつかみたい ⇒ 住宅金融支援機構の長期修繕ナビ。お金をかけずに収支の見通しを把握できます。ただし機能は限定的です。
- 公的に低額で標準様式の計画を作りたい ⇒ マンション管理センター。一度の往復で済みますが、細かな調整はできません。
- Excelで自分で試算したい ⇒ 買い切りExcelのシム長計。
- 紙の資料はあるが誰かにデータ化してほしい ⇒ データ化代行のマンション修繕なび。ただし長期修繕計画作成には対応していません。
- 専門家に伴走してほしい。毎年回し続けたい ⇒ AI伴走型のAI修繕ドクター、または専門家に委託。
- お金がかかってもプロに見てほしい。全部任せたい ⇒ 大手管理会社・設計コンサル・建築士事務所への委託。
- 計画を自分で作って・取り込んで・継続的に数字で判断し続けたい ⇒ 長期修繕計画シミュレーションSaaSの SOLCUBE Cloud。
長期修繕計画シミュレーター「SOLCUBE Cloud」について
特徴
SOLCUBE Cloud は、自分で操作するWebサービスです。できることは大きく2つあります。
ひとつは、計画づくりとシミュレーション。手元に既存の計画がなくても、建物の基本情報(延床面積・築年数など)を入れれば、標準的な修繕計画をその場で生成し、30年超の収支、資金がショートする年、推奨の平米単価、修繕積立金を改定していくステップ等を詳細にシミュレーションできます。
もうひとつは、手元の計画の取り込みと診断。手元のPDFやExcelの資料を、Anthropic社のAIで読み取って取り込み(文字情報を含むPDFが対象です)、A〜Dの段階スコアで現状の計画がどの状態かを示します。判定の基準は国土交通省のガイドラインに紐づけて公開しているので、「なぜこの判定になったのか」を確認できます。
料金は、管理組合向けの Standard プランで月額5,980円(年額 59,800円)です。なお、建物設定が固定のお試し版として、無料の Personal もあります。(お手元の計画をアップロードしての「AI診断」は Personal でも月3回まで可能です。) ※最新の価格は公式の料金表をご確認ください。
SOLCUBE Cloud はどういう組合に向くのか
SOLCUBE Cloud は最安ではありません。 とにかく無料がいいなら、住宅金融支援機構の無料ツールがあります。一度作って終わりでいいなら、買い切りのExcelという選択肢もあります。手取り足取り代行してほしいなら、データ化代行や専門家への委託のほうが向きます。
では、SOLCUBE Cloud はどういう組合に向くのか。それは、自分たちで・継続的に・数字で判断したい組合です。理事が毎年入れ替わっても、その場で診断して、根拠を確認しながら、組合の中で資金計画を点検し続ける。インフレが続いたらどうなるか。借り入れ時の金利によって修繕積立金残高はどのように変動するか。環境の変化に、自分たちのマンションは耐えられるか。その根拠を自分たちで把握し、確かめることができるか。
差別化しているのは価格ではありません。即時性(その場で答えが出る)、透明性(判定の根拠が見える)、継続利用、理事や区分所有者での合意形成。ここに価値があると判断して作っています。
締め: 選び方は「誰が・どの頻度で・何を判断したいか」
長い記事になりましたが、選び方の本質はシンプルです。
誰が手を動かすのか。どの頻度で見直すのか。何を判断したいのか。 この3つを自分の組合に当てはめれば、どのタイプが向くかは自然に絞れます。
無料ツールが正解の組合もあれば、買い切りExcelで十分な組合もある。専門家に丸ごと委託したほうがいい組合もあります。SOLCUBE Cloud が向くのは、その中の一部かもしれませんが、それでいいと思っています。道具は、組合に合っていることが何より大事だからです。
自分の組合がどのタイプに当てはまりそうか、この記事の7軸で一度整理してみてください。それが、道具選びで失敗しない一番の近道です。
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